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東京地方裁判所 昭和50年(行ウ)156号 判決

東京都港区赤坂三丁目九番一号

原告

紀陽物産株式会社

右代表者代表取締役

松田吉男

右訴訟代理人弁護士

大庭登

東京都港区西麻布三丁目三番五号

被告

麻布税務署長

北川烈

右指定代理人

櫻井登美雄

清水茂理雄

池田春幸

平井拓雄

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が昭和四八年三月三〇日付でした原告の昭和四五年一〇月一日から昭和四六年九月三〇日までの事業年度分の法人税の更正並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は不動産の賃貸等の業務を営む会社であるが、原告の昭和四五年一〇月一日から同四六年九月三〇までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)分法人税に対する更正、審査裁決等課税処分の経緯は別紙一のとおりである。

2  しかし、右更正並びにこれに伴う過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定(但し裁決により一部取り消された後のもの。以下これらを「本件更正」、「本件賦課決定」という。)は、原告の所得金額を過大に認定した違法があるので取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実は認め、同2は争う。

三  被告の主張

1  原告の本件事業年度に係る法人税の所得金額は、次の(一)ないし(八)の所得合計二七三〇万〇一四〇円(予備的に二二六九万一一五一円)を申告額零円に加算した金額であるので、右所得金額の範囲内でされた本件更正は適法である。

(一) 売上計上洩れ 四三〇万円

(1) 原告は、昭和四六年八月株式会社交信社(以下「交信社」という。)と、同月三〇日株式会社岡崎製作所(以下「岡崎製作所」という。)と、同年九月一日有限会社ラブラブ(以下「ラブラブ」という。)と、それぞれ、原告の所有する紀陽ビルの貸室賃貸借契約を締結し、保証金として、交信社は四〇〇万円、岡崎製作所は四〇〇万円、ラブラブは三五〇〇万円をそれぞれ原告に預託する旨約し(右交信社、岡崎製作所の保証金はこれを収受し)、原告は右各社に各室を引き渡した。

なお、仮に原告とラブラブとの間の賃貸借契約書が後日作成されたものであつたとしても、紀陽ビルでは保証金及び賃料は、使用階数及び面積により一定の基準に従つて定まるものであり、ラブラブは昭和四六年九月一日から紀陽ビル地下一階五九・一坪の使用を開始し、既にその使用階数及び面積は特定していたのであるから、右使用開始日である昭和四六年九月一日、保証金及び賃料を含めた賃貸借契約についての合意が成立していたものといえる。

(2) 原告と右三社との間の賃貸借契約によれば、原告が賃借人である三社から預託を受けた各保証金の一割に相当する金額合計四三〇万円は、契約の終了事由に関係なくすべての場合において返還を要しない金員とされているので、右保証金の一割相当額に対する債権は、各賃貸借契約が締結され室の引渡しのあつた時点でこれを収受して返還を要しない性質の金員の交付を請求する権利、すなわち権利金債権の一種として確定するものというべきである。してみると、右保証金一割相当額は右各賃貸借契約締結の日の属する本事業年度の益金とすべきものである。

(二) 建物借地権譲渡益計上洩れ 一四八六万九六一五円(予備的に一〇二六万〇六二六円)

(1) 原告は、昭和四四年二月三日、別紙二(一)記載の建物(以下「本件建物」という。)及びその敷地である同(二)1、2記載の土地(以下「本件1の土地」、「本件2の土地」、両者を併せて「本件土地」という。)に対する借地権(以下本件建物及び本件土地に対する借地権を併せて「本件物件」という。)を訴外辛貞淑(以下「辛」という。)から買い受け、同月四日本件建物につき所有権移転登記(以下「本件登記」という。)を経て所有していたが、右建物が神奈川県の施行する川崎停車場扇町線の道路拡張計画(以下「本件道路拡張計画」という。)のため一部除却されその敷地部分を明け渡したので、原告は昭和四五年一〇月一九日、同県から除却補償料六一二万五六九一円(以下「本件除却補償料」という。)を受領した。

原告は同月二六日 本件建物のうち残存部分及びこれに対する借地権を訴外京浜住宅株式会社(以下「京浜住宅」という。)に代金一八〇〇万円で売り渡した(以下「本件売買」という。)。

なお、本件建物が原告所有に係るものであることは本件登記の存在から推定されるところであるが、さらに本件除却補償料を請求したのは原告である、本件除却補償料の支払いのため振出された小切手を受領したのも原告であり、これが原告名義の預金口座に入金されていること、本件建物に係る昭和四五年度分固定資産税を原告が納付し、原告の公租公課として損金経理されていることも明らかである。そして借地上の建物が譲渡された場合には特段の事情のない限り敷地の借地権もこれに伴つて移転するものと解されるところ、本件にあつては右特段の事情は何ら見当たらないので、本件土地借地権も原告に移転したものと解すべきである。

(2) 本件物件の取得価額については、原告は帳簿に受入れ記入せず、本件更正に係る調査の際にも取得原価の説明もせず、具体的資料の提出もしなかつたのでこれを明らかにすることができなかつた。そこで被告は、次のとおり推計した結果、本件物件の譲渡益を主位的に一四八六万九六一五円、予備的に一〇二六万〇六二六円と算定した。すなわち、

本件建物を原告が取得した直後である昭和四四年三月一二日、本件土地と道路を隔てた隣接地である川崎市浜町一丁目三七番一及び同番五の所有者である訴外平尾茂雄は、本件道路拡張計画に基づき神奈川県に対し右所有地の一部二八七・二四平方メートルを一平方メートル当たり四万八〇〇〇円、合計一三七八万七五二〇円で売り渡した。この買収価額は、当事者が自由に近隣の土地価額等を十分斟酌して算出した適正価額であるから、辛からの譲渡価額を直接明らかにする証拠がなく、他に特別の事情も認められない本件土地の一平方メートル当たりの譲渡価額も同額と認めるべきである。そうすると本件土地の原告取得当時の更地価額は、右の単価に三六九・三一平方メートルを乗じた一七七二万六八八〇円というべきである。

本件建物が辛から原告に譲渡された後においても辛の夫である権成洙(以下「権」という。)は従前どおり本件建物でパチンコ営業を継続しており、同人の本件建物に対する使用権限は強固な権利で、原告は、借地上の建物に第三者が使用収益権限を有する状態、ひいて借地権を取得したものである。右借地権割合は、原告が本件建物を取得した昭和四四年分の相続税評価基準における正面路線価(八万円)に対する貸家建付借家権割合が三九パーセントであり、この借地権割合は東京国税局長が近隣の借地権の売買実例及び精通者等の意見を基に検討し定めたもので、適切かつ合理的なものであるから、これを本件の借地権価額の計算の基礎とすべきである。そうすると、本件土地の借地権価額は、前記の更地価額に右三九パーセントを乗じた六九一万三四八三円となる。

本件除却補償料は、本件建物の除却部分及びその敷地部分の借地権をいわば神奈川県に譲渡した対価とみるのが相当であるからこれを譲渡益算出の基礎数額として計上すると、譲渡益は別紙三1のとおり一四八六万九六一五円となる。

なお、本件建物及び借地権の譲渡益はこれを京浜住宅への譲渡分(当初の本件物件の面積の七三・四パーセント)と神奈川県の買収分に区分して計算しても別紙三2のとおり同様の結果が得られる。

仮に本件物件が貸家建付借地権と認められないとしても、前記の相続税評価基準における正面路線価に対する借地権割合は六五パーセントであるから、譲渡益は別紙三3のとおり一〇二六万〇六二六円となる。なお、前同様京浜住宅への譲渡分と神奈川県の買収分に区分して計算しても、同様の結果となる。

(三) 造作・備品・汁器計上洩れ 五五万円

(四) 貸付金利息計上洩れ 五七万〇三三四円

(五) 旅費・交通費中損金とならないもの 四四万八〇〇〇円

(六) 未収賃料等計上洩れ 二二五万三三四三円

(1) 進営建設株式会社(以下「進営建設」という。)分一三九万九八四三円

〈1〉ア 原告は昭和四二年三月二五日、進栄建設に対し、期間同四五年三月五日まで、賃料月額九万二〇〇〇円の約で紀陽ビル七階一号室(七九・三三平方メートル、二四坪)を賃貸した。

イ 進栄建設は、昭和四五年三月六日以降も引続いて右室を、同年五月以降は右室の代室として同ビル五階の一部少なくとも二一坪をそれぞれ使用しているので、借家法二条、民法六一九条一項により右賃貸借契約は更新された。

ウ 進栄建設は右更新以降賃料等を支払つていないが、賃料月額九万二〇〇〇円、一二か月分一一〇万四〇〇〇円、契約に基づく管理料月額一万円、一二か月分一二万円及び進栄建設が負担すべき電気・水道料一二か月分合計一七万五八四三円は本件事業年度の益金に算入すべきである。

〈2〉ア 仮に右契約更新が認められないとしても、貸ビル業を営む原告はその営業目的のため所有している紀陽ビルの五階の一部を本件事業年度の間進栄建設に使用することを許したものであるが、進栄建設及び同社の代表者中村吉三(以下「中村」という。)が同じく代表者をしていた東大ハウス株式会社(以下「東大ハウス」という。)は右五階の一部を共同して使用し、営業活動しており、原告もまた東大ハウスの使用を黙認していた。その間原告は賃料等を免除する意思表示は一切せず、進栄建設においても決算書類に支払家賃(未払金)を一年分一〇八万円(月額九万円の一二か月分)として計上するなどして賃料等の支払能力及び意思を有していた。従つて、原告は商法五一二条に基づき進栄建設に対しその使用部分に対応する賃料及び管理料相当額の請求権を取得し、これが原告の資産を増加させたものであるから、右相当額を益金に算入すべきである。

なお、原告は電気料・水道料については直接東大ハウスに請求していたもので、益金に算入すべきであるが、その額は〈1〉アに主張したところと同一である。

イ 紀陽ビルの賃料・管理料は、使用面積(坪数)に各階での基準となる三・三平方メートル当たりの単価(以下「坪単価」という。)を乗ずることにより算出されており、五階の坪単価は同ビルの五ないし七階が同一の間取り、面積であつて同額であると認められるので、次のとおり算出される。

本件事業年度中紀陽ビル六階四八坪を岡崎製作所が月額賃料二一万六〇〇〇円(坪単価四五〇〇円。昭和四六年八月から坪単価七〇〇〇円に増額されたが、増額前のものを基準とする。)管理料二万八八〇〇円(坪単価六〇〇円)で賃借し、同ビル七階四八坪をブリタニカ語学教育センターが月額賃料三八万四〇〇〇円(坪単価八〇〇〇円)、管理料二万八八〇〇円(坪単価六〇〇円)で賃借していたので、五階については両者の平均をとり、月額賃料坪単価六二五〇円、管理料坪単価六〇〇円とみるのが相当である。従つて、進栄建設らの使用していた二一坪分については、月額賃料相当額一三万一二五〇円、管理料相当額一万二六〇〇円となり、これらの一二か月分はそれぞれ一五七万五〇〇〇円、一五万一二〇〇円、合計一七二万六二〇〇円となる。

〈3〉 仮に原告が進栄建設又は中村に前記紀陽ビル五階の一部二一坪を無償で使用させていたとしても、右役務のもつ時価相当額の経済的価値が原告から進栄建設らに移転し、これにより当該役務のもつ経済的価値の実現があつたものと認められるので、法人税法(以下「法」という。)二二条二項の無償による役務の提供による収益として、その役務提供時の時価相当額(賃料及び管理料相当額)を益金に算入すべきである。

そして右賃料・管理料相当額は法三七条により同額が進栄建設らに対する寄付金として処理されることとなるが、同条二項、法人税法施行令(以下「令」という。)七三条の規定に従つて寄付金の損金算入限度額を計算し、原告の所得金額を算出すると、本件更正に係る所得金を越えることとなる。

(2) ラブラブ分 八五万三五〇〇円

〈1〉 原告は(一)(1)に主張したとおり、昭和四六年九月一日ラブラブとの間で賃貸借契約を締結し、直ちに室を引き渡したが、その月額賃料は五九万一〇〇〇円であつた。

〈2〉 ラブラブは右契約成立と同時に保証金三五〇〇万円を原告に預託する、これが納付が遅れた場合は月二六万二五〇〇円の割合による遅延利息を支払う旨約したが右三五〇〇万円を預託しなかつた。

〈3〉 ラブラブは昭和四六年九月分の賃料及び右遅延利息を支払わないが、これら未収賃料等合計八五万三五〇〇円は益金に算入すべきである。

(七) 寄付金の損金不算入額 二五六万〇六六〇円

原告は本件事業年度内に訴外松田繁(以下「繁」という。)らに合計三三八万一四〇〇円に及ぶ経済的利益を贈与したので、これを法の寄付金としてその損金算入限度超過額を、原告の繰越欠損金控除前申告所得合計四一七九万六〇五七円、本件事業年度末の資本等の金額二五〇〇万円をもとにして法三七条、令七三条に従つて計算すると、二五六万〇六六〇円となる。

(八) 繰越欠損金控除過大額 一七四万八一八八円

なお、原告が申告した翌期への繰越欠損金一四九万九二五一円は、原告の昭和四四年一〇月一日から同四五年九月三〇日までの前期事業年度から本件事業年度へ繰越された欠損金額が、被告が前期事業年度分に対してした更正により四〇〇四万七八六九円に減少したため、存在しなくなつた。

2  原告は、先に主張したとおり、昭和四四年二月三日、本件物件を取得したが、これを帳簿に記入せずに簿外資産とし、本件除却補償料、本件売買代金を受領しながらこれらも帳簿に記入せず所得から除外して確定申告したものであり、右は、国税通則法六八条一項に該当するので、同法施行令二八条一項により重加算税を計算すると、重加算税の基礎となる所得は本件物件の譲渡益に、過少申告加算税の基礎となる所得は本件その余の所得金額となるが、本件賦課決定における重加算税の基礎となる所得九六八万〇六九一円、過少申告加算税の基礎となる所得一二四二万八九〇八円をそれぞれ上回るから、右決定は適法である。

四  被告の主張に対する認否及び原告の主張

1(一)  被告の主張1(一)(1)のうちラブラブとの賃貸借契約の成立日時については当初自白したが、右は錯誤に基づくもので真実に反するので撤回し、否認する。

ラブラブとの賃貸借契約は昭和四七年九月一日に成立したものである。

(二)  同1(一)(2)は否認する。

原告と交信社ら賃借人との間の賃貸借契約においては、保証金の一割相当額は、契約が解除又は解約されたときのみ償却される旨定めており、右以外の原因、すなわち、期間満了又は目的物の全部滅失により契約が終了したときは償却は行われないこととなつていたのであつて、保証金の一割相当額が償却されるか否かは契約締結時には全く未確定であり、現に原告においては契約終了時に保証金の返還・償却の手続をとつていたのである。従つていわゆる権利確定主義により右償却分はこれが確定する契約終了時に計上すべきである。

2(一)  被告の主張1(二)(1)のうち、本件建物の敷地が本件土地であること(但し、本件2の土地の面積は九八・七九平方メートルである。)、本件登記の存在及び被告主張の固定資産税を原告が支払つたことは認めるが、その余は否認する。なお、右固定資産税は原告の経理担当者が誤つて納付したものであり、また仮に本件除却補償料の一部が原告の経費の支払いに充てられたとしたらこれも同様の事情によるものである。本件除却補償料が原告名義で支払われたのは形式上のことに過ぎない。

(二)  本件建物は辛、実質上はその夫である権の所有であつて、本件登記は次のような経緯でされたものであり実体を反映するものではない。すなわち、

権は原告の代表取締役松田吉男(以下「松田」という。)に対し総額二一六〇万円に及ぶ債務を負つていたが、昭和四三年一二月頃さらに本件建物を担保として融資を申し込んできた。当時松田はたまたま手持資金がなかつたので訴外東京商銀信用組合(以下「訴外組合」という。)に融資の斡旋をしたところ、借入れ名義人が川崎市に住む権又は辛では融資ができないということであつたため、本件建物を原告名義にし、これを担保にして原告が訴外組合から一五〇〇万円の融資を受けることとし、本件登記を経たものである。その後右融資は訴外組合により一方的に中止されたが、他の債務の返済に窮していた権は、債権者の追求を免れるため、本件建物を原告名義にしておいた。

本件建物が辛又は権の所有に属することは一般に建物に抵当権が設定されているときは通常これを弁済し、抹消してから譲渡するものであるところ、本件建物には、横浜商銀信用組合及び訴外辛七夕をそれぞれ債権者とする抵当権が設定されたまま本件登記がなされ、その後に権が右辛の抵当権の被担保債権を弁済していること、本件登記がされた後も権が本件建物を使用していたが、原告に対し家賃を支払つた事実はないこと、また通常敷地に対する使用権が譲渡されずその上の建物のみ譲渡されることは考えられないところ、本件にあつては、本件建物につき本件答記がなされた後も、本件1の土地所有者市川キョに対し辛が地代を支払い、本件2の土地に対する地上権も同人名義であつたことから明らかなように敷地使用権が原告に譲渡された事実は存在しない。

本件除却補償料及び売却代金は辛又は権が受領したものである。

(三)  同1(二)(2)はすべて争う。

被告が依拠している「路線価」は相続税及び贈与税の財産評価にのみ用いられるもので本件には適用できないものである。

貸家建付借地権割合は通常の借地権価額から借家権価額を差し引いた額であり、本件土地は店舗地であるので借地権割合は七五ないし八五パーセント(平均八〇パーセント)、借家権割合は建物の評価額の四〇パーセント及び更地価額の一〇パーセントとされるのが通例であるから、本件建物のように建物価額が低いときは貸家建付借地権は七〇ないし七五パーセントとみるのが相当である。のみならず、本件建物には借家権は全く存在しない。

また本件土地の借地権割合は右に主張したごとく店舗地の借地権割合は通常七五ないし八五パーセントであるから八〇パーセントとみるのが相当である。

(四)  仮に原告が本件建物を取得したものとしても、その譲渡益は別紙四のいずれかの方式により算出すべきである。

3  被告の主張1(三)ないし(五)、(七)、(八)の事実はいずれも認める。

4(一)(1) 被告の主張1(六)(1)〈1〉アの事実は認める。

(2) 同1(六)(1)〈1〉イの事実のうち、進栄建設が昭和四五年三月六日から同年五月まで従前と同一の室を使用していたことは認めるが、これは同社が不法占拠していたものである。また、同年五月以降原告において進栄建設又は中村が紀陽ビル五階の一部六、七坪を原告と共同して使用することを許諾したことは認めるが、これは、従前の室を明け渡させる代償として無償で同居させたものであり、代室として使用させたものではない。その余は争う。進栄建設との賃貸借契約は、同年三月五日、期間満了により終了した。

(3) 同1(六)(1)〈1〉ウは争う。

(4) 同1(六)(1)〈2〉アは争う。事実は(2)で主張したとおり、七階を明け渡す代償としてやむなく進栄建設が五階の一部六、七坪を無償で原告と共同して使用することを許したものである。原告において東大ハウスが右室を使用することを黙認したことはない。

商法五一二条は賃料相当額につき当然に損害賠償請求権を認めたものではない、また賃料相当損害金はこれを請求するか否かは原告の自由であり、右損害賠償請求権ないし商法五一二条の「報酬」請求権は、現実に右金員が支払われるか債務者の承認もしくは判決等により確定するまでは不確定な債権であり、現に本件にあつても回収の見込みがなかつたものであり、本件事業年度の益金に計上する必要はないのである。

また電気料・水道料を損害賠償として東大ハウスに請求したことは認めるが、これとて、支払や債務確認があるまでは収益として計上する必要はないのである。

(5) 同1(六)(1)〈2〉の事実のうち、岡崎製作所の賃料、管理料の額については認めるが、進栄建設の使用面積は否認する。

(6) 同1(六)(1)〈3〉は争う。進栄建設らの室の使用は不法占拠に等しく、原告は常に退去を要求していたのであるから、無償供与したものということはできない。無償で使用させたとしても、法二二条二項にいう収益は存在しない。

(二)(1) 被告の主張1(六)(2)〈1〉については、契約締結日を当初認めたが右は真実に反し錯誤に基づくものであるから取り消し、否認する。契約締結日は昭和四七年九月一日である。仮に同四六年九月一日ラブラブとの間で賃貸借契約が締結されたとしても、当時賃料額についての合意は成立していなかつたから、賃料債権は確定していない。

(2) 同1(六)(2)〈2〉の事実のうち、ラブラブが三五〇〇万円を預託しなかつたことは認めるが、その余は否認する。

昭和四六年九月末日においてラブラブに対する保証債権は成立していなかつたし、未払保証金に利息を付する旨の約定もなかつた。

(3) 同1(六)(2)〈3〉の事実のうち、ラブラブが昭和四六年九月賃料及び遅延損害金を支払わないことは認めるがその余は争う。

5  被告の主張2は争う

6(一)  仮に原告とラブラブとの賃貸借契約が昭和四六年九月一日に成立したとしても、ラブラブの真実の経営者は川島長浩(以下「川島」という。)であり、かつ保証金も賃料も支払う意思がないのに、経営者は高島敏夫(以下「高島」という。)であつて保証金及び賃料を支払うかのように装つて原告を欺き、その旨誤信させ、右契約を締結させたものであり、右契約は詐欺によるものであるから、原告は昭和四七年一〇月一四日、右契約を取り消す旨意思表示した。

(二)  従つて、右契約は当初に遡つて効力を失ない、保証金預託請求権及びこれに対する遅延損害金請求権並びに賃料請求権は当初から存在しなくなつたので、右各請求権による金員を本件事業年度の益金に算入することはできない。

また、本件事業年度末の昭和四六年九月末日においては、右事由により近い将来右契約が取り消されることが明らかになつていたので右各債権は未だ確定していなかつたものである。

さらに、右契約は「取り消された」ものであつて「解除」又は「解約」されたものではないから保証金の一割相当額額を償却しえないのは右契約の文言からも明らかである。

五  原告の主張に対する認否及び被告の反論

1  原告の主張1(一)、4(二)(1)の自白の撤回に対して異議がある。

2(一)  同2(二)は争う。なお仮に本件登記が権のために訴外組合から融資を受けることを目的として本件建物を担保にするためになしたものとすれば、それはまさしく担保に供するため合意に基づき真実所有権を一旦原告に移転したものと推認しえないとすると、訴外組合からの融資が実現し、本件物件が担保に供された(例えば抵当権の設定)後、本件登記が虚偽によるものであることを理由とする辛からの本件登記ないし右抵当権設定登記の各抹消登記請求を許容することにもなりかねないからである。また、仮に辛が地代の支払をした事実があるとしても、本件建物が原告に譲渡された後も権が依然として同建物でパチンコ営業を継続していたものであるから、辛において従来どおり同人名義で地代の支払をする一方、原告は本件建物の固定資産税の支払に任じ、同建物の使用料を徴収しないこととし、対地主との関係は従来の借地人である辛のままとしておくことはありうることであるから、前記の地代支払の事実をもつてしても、本件建物が原告の所有でないということはできない。畢竟するに原告の立証は本件登記の推定力を覆すには足りないものというべきである。

(二)  同2(四)は争う。法は減価償却資産(建物)の取得価額について令五四条一項に規定するが、非減価償却資産(借地権)については明文の規定を欠いている。しかし令五四条一項は固定資産の取得価額につき一般に公正妥当と認められる会計慣行を明文化したに過ぎないものであるから、非減価償却資産の取得価額についても同条の規定を類推適用するのが相当である。従つて、購入により取得した場合は購入代価等(同項一号)、同項一ないし六号に規定する方法以外の方法により取得した場合は、その取得の時における当該資産の取得のため通常要する価額と当該資産を事業の用に供するため直接要した費用の額との合計額とすべきであり(同項七号)、権に対する債権額や横浜商銀信用組合の被担保債権をもつて取得費とすることはできないのである。また、原告主張の取得経費、譲渡経費及び借地権価額は算定の根拠が不明である。

3(一)  原告の主張6(一)の事実は不知。

(二)  同6(二)は争う。仮に詐欺による取消しが認められるとしても、ラブラブ分の保証金の一割相当額は本件事業年度の収益として計上すべきものである。すなわち、法は各事業年度ごとに期間を区切り、その期間ごとに所得を算出し、これを法人税の課税標準としており(法二一条)、また右課税標準である所得の金額は法七四条一項の規定するいわゆる確定決算主義に則り確定した決算に基づくものでなくてはならない。そして、右契約の取消しによる損失は法二二条三項の損失に該当するが、いずれの年度の損失に計上すべきかについては法は一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算すべきものとしているところ(法二二条四項)、右損失のように前期以前に計上した収益の訂正と認められるものについては、訂正すべき事由の生じた時点において「前記損益修正損益」として損失を計上すのが一般に公正妥当と認められる会計処理なのであり、前記のように確定決算主義を採用していることからも、前期以前に遡つて既に確定している決算内容を訂正する処理は行ないえないのである。本件については、本件事業年度終了の時点では賃貸借契約が存続していたのであるから、仮に後日取り消されたとしても、保証金の一割相当額の償却分、保証金に対する遅延利息、賃料を本件事業年度の収益に計上し、ついで右契約の取り消された時の属する事業年度の損金とすべきものであるから、右契約の取消しは本件事業年度の収益の額に影響するものではない。

また原告の主張する契約「取消し」事由は、結局解除事由に当たるものであり、右「取消し」は解除の意味と解すべきであるから、当然保証金の一割相当額はこれを償却しうるものである。

第三証拠

一  原告

1  甲第一ないし第一二号証、第一三号証の一、二、第一四ないし第二五号証を提出。

2  証人川島長浩、同中村吉三、同三上洋子、同松田繁、同権成洙の各証言及び原告代表者本人尋問の結果を援用。

3  乙第一ないし第七号証、第八、第九号証の各一、二、第一二ないし第一八号証、第二三ないし第二五号証、第二八号証の一ないし三、第二九、第三〇、第三八号証、第三九号証の一ないし三の各成立(第一ないし第三号証、第八、第九号証の各一、二、第一二ないし第一七号証、第二九、第三〇号証については原本の存在及び成立)は認める。その余の乙各号証の成立(第二〇、第二一号証の各一、二、第二二、第二七、第三六号証については原本の存在及び成立)は不知。

二  被告

1  乙第一ないし第七号証、第八、第九号証の各一、二、第一〇ないし第一九号証、第二〇、第二一号証の各一、二、第二二ないし第二七号証、第二八号証の一ないし三、第二九ないし第三八号証、第三九号証の一ないし三を提出。

2  証人清水善一(第一、二回)、同神谷栄吉、同平井拓雄、同磯部喜久男の各証言を援用。

3  甲第七号証、第九ないし第一二号証、第一三号証の一、二、第一四ないし第一七号証、第一九ないし第二五号証の各成立は認める。その余の甲各号証の成立(第八号証については原本の存在及び成立)は不知。

理由

一  請求原因1及び被告の主張1(三)ないし(五)、(七)、(八)の各事実は当事者間に争いがない。

二  売上計上洩れについて

1(一)  被告の主張1(一)(1)の事実のうち被告主張の日時に交信社及び岡崎製作所が原告と賃貸借契約を締結し、保証金の支払いを約し、かつ、これを支払い、室の引渡しを受けたことは原告において明らかに争わないのでこれを自白したものとみなす。

(二)  原告とラブラブとの間の賃貸借契約については、原告は当初これが昭和四六年九月一日に成立したものであることを自白しながら(原告の昭和五一年六月九日付準備書面第一、二(一)で「原告が昭和四十六年九月一日に有限会社ラブラブと貸室賃貸借契約を締結したとの事実……は……否認する。」、第一、六(一)で「原告が有限会社ラブラブと昭和四十六年九月一日から……貸室賃貸借契約をなして賃貸していたとの事実は全面的に否認する。」と述べているが、同書面第一、二(四)、六(二)の右契約が詐欺により取り消されている旨の陳述、同年七月二八日付準備書面の「昭和四十六年九月一日締結に係る……賃貸借契約」との文言、同年一二月一五日付準備書面一の「昭和四十六年九月二十五日に支払うべき賃料も全然支払いがなく」との文言(もつとも右各文言については、昭和五五年一一月一〇日付準備書面をもつて訂正の申立がある。)に照らすと、前記「否認する。」とは、後日詐欺により取り消されて「契約当初に遡つてその効力を失つている。」との趣旨であり、契約締結の事実自体は認めていたものとみるのが相当である。)、昭和五四年一〇月四日付準備書面において右自白を撤回し、右自白は真実に反し、錯誤によるものであると主張し、契約成立の日時を否認するので、この点につき判断する。

成立に争いのない甲第一一、第一二号証、第一三号証の一、二、第一四、第一五号証、乙第三号証、第二八号証の一ないし三(乙第三号証については原本の存在も争いない。)並びに証人川島長浩、同三上洋子、同松田繁の各証言及び原告代表者本人尋問の結果によれば、

原告の代表者松田は、昭和四六年頃、知人の川島から紹介された元高級大蔵官僚の訴外橋本正次郎(以下「橋本」という。)を資金調達の便宜を得る目的から原告の代表取締役として迎えることとしていたところ(商業登記簿上は、同年一一月一六日付で、松田が同年六月二九日に退任し、橋本が同年一一月一〇日就任した旨の登記がなされている。)、橋本は、同年九月頃、右川島、高島、織田賢昭(以下「織田」という。)らと語らつて紀陽ビルの地下一階で織田らをしてクラブを経営させることを企図し、大阪にいた松田もこれを了承した。織田らは、有限会社ラブラブを設立し、同月一日頃原告から紀陽ビル地下一階五九・一坪の引渡しを受け、同月中頃改修工事を始め、同年秋頃からクラブラブラブとして営業を開始した。ラブラブは右のように原告の代表取締役に就任する予定となつていた橋本と親密な関係にあつた者が集まつて始めたという事情もあつたため、原告との間で正式に賃貸借契約書を取り交すことなく室の使用を開始したが、原告・ラブラブの両当事者ともに無償の貸借関係であるとの認識はなく、使用関係としては有償の貸借関係、すなわち賃貸借契約に基づくものであると認識していた。ところがラブラブは経営状態が不良で原告に対し何らの金員の支払いもせず、松田と橋本の間にも争いが起きて翌四七年七月二日橋本が原告の代表取締役を辞任し、松田がこれに復帰したが、その頃から松田はラブラブに対し明渡しを迫るようになつた。しかしラブラブは改修費等に多額の投資をしていたことから営業の継続を望み、賃料を支払うから経営を続けさせてくれるよう懇願したので、松田もやむなく権利関係を明確にしたうえで使用を継続することを了承した。かくして昭和四七年九月一日、原告ラブラブの間で、賃料月額五九万一〇〇〇円、保証金三五〇〇万円とし、昭和四六年九月一日に右地下一階を貸与した旨の同日付の賃貸借契約書(乙第三号証)が作成され、同時にラブラブは原告に対し昭和四七年九月分の賃料を小切手で、過去一二か月分の賃料七〇九万二〇〇〇円及び保証金三五〇〇万円を約束手形で支払つた。

以上の事実が認められ、他にこれを覆すに足りる証拠はない。

右に認定したとおり昭和四六年九月一日付の原告とラブラブとの間の賃貸借契約書は、昭和四七年九月一日に至つて作成されたものであるが、原告は、本件事業年度末である昭和四六年九月末日には、ラブラブとの間で賃料、保証金の金額は合意されていなかつたと主張し、原告代表者、証人三上及び同川島は、右賃料及び保証金の金額は、昭和四七年九月一日に初めて定められたものである旨供述する。しかしながら、右各証言並びに原本の存在及び成立に争いのない乙第二九号証によれば、紀陽ビルの貸室の賃料及び保証金の額は使用階数に応じて坪単価が定められており、ラブラブについて定められた前記の賃料及び保証金の額も右基準に準拠した金額であつたこと、松田は昭和四七年八月頃事実上ラブラブの経営を取り締つていた川島に対しラブラブが当然支払うべき家賃等を支払つていないと再三叱責したことがあることが認められ、また成立に争いのない甲第一七号証によれば原告は本件審査請求の段階においても右賃貸借契約の成立は昭和四六年九月一日であることを認めていた事実が認められ、これらの事実と、原告のように不動産の賃貸等の業務を営む会社がその業務用のビルの一室を有償であることを前提としながら具体的な賃料額等を定めることもなく一年間も第三者に使用させるなどということは橋本と原告との関係を考慮しても首肯しえないことであることに鑑みると、前記各供述はいまだ採用することができない。かえつて、右の事実関係によれば、原告ラブラブとの間では、ラブラブが紀陽ビル地下一階五九・一坪の引渡しを受けた昭和四六年九月一日頃には、書面には作成されていないものの、賃料及び保証金の額をも含む賃貸借契約が成立しており、右契約の内容を確認する趣旨で、同四六年九月一日に遡及して、賃貸借契約が成立した旨の同日付の契約書を作成したものと認めるのが相当である。そうすると、結局原告の前記自白が真実に反するものであることを認定できないことに帰し、他にこれを認定するに足りる証拠はない。

従つて右自白の撤回は無効であり、原告とラブラブとの間の賃貸借契約が昭和四六年九月一日に成立したことは当事者間に争いがないことになり、また、右契約の内容及び昭和四六年九月一日頃ラブラブに対し室の引渡しが行われたことは右に認定したとおりである。

(三)  原告はラブラブとの契約は、昭和四七年一〇月一四日詐欺により取り消したから、同四六年九月一日に遡及して失効した旨主張する。

前掲甲第一三号証の一、二、第一四、第一五号証並びに証人川島の証言により真正に成立したと認められる甲第一、二号証及び証人川島、同三上の各証言並びに原告代表者本人尋問の結果によれば、前認定のとおり昭和四七年九月一日原告とラブラブとの間の賃貸借契約書が作成された際、ラブラブは原告に対し昭和四七年九月分の賃料を小切手で、保証金及び過去一年分の賃料を約束手形で支払つたが、このうち小切手のみは決済されたものの、手形については遂に決済されなかつたこと、そこで原告は右契約を破棄し立退きを迫つたので、ラブラブも止むなく昭和四七年一一月一一日立退いたことが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

右事実によると、原告は詐欺を理由に賃貸借契約を取り消したものではなく、債務不履行を理由に右契約を解除したものというべきである。従つて、原告の右主張は理由がない。

また昭和四六年九月末日現在において右契約が取り消されるべきことが明らかであつたとの原告の主張は、前記認定事実に照らし到底採用できない。

2(一)  そこで、次に保証金のうちの償却分をいずれの事業年度の収益に計上すべきかにつき判断する。

前掲乙第三号証及び原本の存在並びに成立に争いのない乙第一、第二号証(いずれも紀陽ビル貸室賃貸借契約証)の一六条三項には「契約解除の際は保証金のうち金……円也を償却するものとする。」とあり、一七条には「乙が解約予告期間を経過し、貸室を甲に明渡したとき、甲は保証金をその受領証と引替えに償却分を差し引いた残金を乙に返還するものとする。但し本契約第一五条第二項による契約解除の場合の返済方法については甲乙協議の上定めるものとする。(以下略)」と規定していて、一一条、一五条の契約解除の場合のほか、二条の中途解約の場合においても保証金の一割を償却すべき旨が定められている。この点につき、証人三上及び原告代表者は、契約解除又は中途解約をしたときにのみ保証金の一割相当額が償却され、期間満了又は目的物の減失により契約が終了したときは、償却できない趣旨の約定であると供述する。しかしながら、乙第一ないし第三号証はその第一条に「満期を以つて解約する」との文言を用いていることからも窺えるようにその用語法は必ずしも正確でなく、成立に争いのない甲第七号証及び証人繁の証言によれば、前掲乙第一ないし第三号証の契約書のひな型は、原告代表取締役社長の松田が大阪に居住していたため、当時原告の常務取締役として東京方面での業務全般を扱う最高の責任者であつた松田の甥の繁が、昭和四五年頃、当時ビル等の賃貸借に広く取り入れられつつあつた保証金の償却に関する条項を挿入したものであるが、同人は、賃貸借契約が終了しても、直ちに次の入居予定者との間で賃貸借契約を締結できるとは限らないため、貸主の危険を填補する趣旨で、一般に用いられている保証金の償却に関する条項と同様、借主が明け渡す際はその理由のいかんを問わず常に保証金の一割相当額を借主に返還することを要しない旨規定したもので、原告においてもかように取り扱つてきたことが認められる。証人三上の証言及び原告代表者本人尋問の結果中前記認定に反する部分は、いずれも採用しがたく、他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。

(二)  従つて、各保証金のうち償却分は、契約書の文言はともかくとし、賃貸借契約が終了し賃借人が室を明渡す際は常に賃貸人たる原告において返還することを要しない金員、従つて、貸室の引渡しを受けた時点においてもはや返還することを要しない金員であり、かつ、償却分は当該契約において当初から確定しているのであるから、原告において収益処分をなしうる趣旨の金員として授受されたもの、すなわち一種の権利金と解するのが相当である。そして、右権利金債権は、原告が各賃貸借契約を締結し、保証金の預託及び償却につき合意し、貸室を賃借人らに引渡したときに確定するものというべきであるから、この時点の属する事業年度の収益として計上すべきである。

なお証人三上の証言により真正に成立したと認められる甲第三ないし第六号証及び証人三上、同繁の各証言及び原告代表者本人尋問の結果によれば、原告においては保証金の一割相当額の償却は明渡し時に初めてなしうるものと考え、保証金は契約期間中その全額を「預り保証金」として計上しておき、契約終了の際初めて償却分を雑収入として収益に計上する取扱いをしていたことが認められるが、かような取扱いをしていたからとて前記結論が左右されるものでないことはいうまでもない。

3  前認定のとおり、交信社、岡崎製作所とは昭和四六年八月に、ラブラブとは同年九月一日頃前記の賃貸借契約が締結され、各貸室の引渡しが行われたのであるから、交信社、岡崎製作所分各四〇万円、ラブラブ分三五〇万円の保証金の償却分合計四三〇万円は、本件事業年度の益金に加算すべきである。

三  建物借地権譲渡益計上洩れについて

1(一)  本件建物に本件登記がなされていることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第七号証によれば、本件建物について昭和四五年一〇月二六日付で同日の売買を原因として原告から京浜住宅に対し所有権移転登記がされていることが認められ、さらに原本の存在及び成立に争いのない乙第八、第九号証の各一、二、第一六号証によれば、昭和四五年一〇月一九日本件建物の一部の除却補償料六一二万五六九一円が原告の請求書に基づき神奈川県から原告に対し持参人払式小切手で支払われ、原告がこれを領収し、原告の裏書を経て東海銀行赤坂支店にある原告の当座預金口座に振り込まれたこと(右小切手を換金するだけなら原告の預金口座を利用する必要はないはずである。)そして同月二六、二七日には右金員の一部が原告の費用の支払いのため用いられたこと、本件建物に係る昭和四五年度分固定資産税は原告が納付していること(この事実は当事者間に争いがない。)証人権の証言によれば本件建物の登記名義人であつた辛及び権はいずれも本件除却権補償料及び京浜住宅に対する譲渡益につき所得税の申告をしていないこと、証人清水喜一の証言(第一回)によれば辛は調査に当たつた税務署の係官に対し本件建物は借金のかたに原告に取られたと述べていたことがそれぞれ認められ、他にこれに反する証拠はない。

以上の事実、特に右各登記の存在からすると、本件建物の所有権は辛から原告へ、原告から京浜住宅へ各売買により移転したものと推定されるところであり、原告も本件建物が自己の所有に属すことを前提として、経費の支出、本件除却補償料の受領をしていたというべきである。

(二)  これに対し原告は、本件建物を担保として権のため訴外組合から融資を受ける目的で、本件登記を経由したにすぎず、所有権の移転はないと主張し、右主張に副う次の証拠がある。すなわち、証人権成洙及び原告代表者は、本件建物は、訴外李春熙が競落した建物をパチンコ営業に使用するため権が約一三〇〇万円で妻の辛名義で買い受けたものであり、権は右金員を訴外田中某から松田の保証裏書を得て借り入れていたところ、権が返済できなかつたため松田が代つて支払い、そのため権は松田に対し一三〇〇万円の債務を負うに至つた、権はさらに松田からパチンコ店の改装費等として二八〇万円、無尽関係の資金として利息分を含め六〇〇万円の債務を負つたが、昭和四四年末頃松田に対しさらに一五〇〇万円の融資を申し入れた、しかし、松田は金の持合せがなかつたため、訴外組合に対し本件建物を担保とする融資を斡旋したが、権が川崎市に居住しているため拒絶された、そこで原告と権は本件建物を原告名義にしてこれを担保として原告の名において融資を受けることとして本件登記を経由した、右融資は結局不調に終つたが、権は他に多くの負債を負つていたため、債権者の追求を避けるために本件登記はそのままにしておいた、本件除却補償料の交渉は権の債権者訴外金明振(石川稠)がしたものであり、京浜住宅への売渡しの交渉も金がしたものである、権は本件補償料全額と京浜住宅への売渡代金一八〇〇万円のうち一四〇〇万円を松田に交付し、前記債務を決済した、以上のように本件建物は登記名義を便宜上原告に移したのみで所有権は権にあつたものである、と供述し、また証人繁、同三上も同様な供述をし、さらに成立に争いのない乙第二三号証、証人権の証言により原本の存在及び成立の認められる甲第八号証にも同旨の記載がある。

(三)  (1)しかしながら、訴外組合に対する融資の申込み、交渉について客観的な証拠は何ら提出されていないところであるが、証人権の証言によれば、融資について最も関心あつたはずである権は融資が中止と決定された具体的理由を知らず、その探索も行つていないことが認められるが、これは融資のため本件登記を経由したとする者の行動としては不自然であるし、同証人はその後辛のため登記を回復しなかつた理由について何ら首肯するに足りる証言をしていない。(2)原告代表者本人は、右融資の中止が決定したのは昭和四四年九月であり、その理由は本件建物の一部が除却され立退きする予定であつたこと及び先順位の担保権が存在していたからであると供述する。しかし、一方証人権の証言によれば融資の申込み前から本件建物の一部が収用の対象となつていたことは権及び原告代表者が知つていたことがうかがわれ、また先順位の担保権の存在していたことは登記簿上明らかであるから、かような理由により融資が中止になつたとすれば、わざわざ本件登記を経由したことがいかにも軽卒かつ取引の常識に反する不自然な行為といわざるをえない。金融取引においては、金融機関の融資の内諾をえてからこれに対応する措置をとるのが通例であるから、前記の原告代表者本人尋問の結果は措信することができず、原告の主張するように融資の目的で本件登記がされたとみることは極めて疑わしい。(3)権が松田から二一八〇万円借用していたという点についても、認めるに足りる客観的な証拠は存在しないのであるが、さらに右債務の返済の点について、本件除却補償料は前認定のとおり権又は松田の預金口座に入れずに原告の預金口座に入金されており、また、原本の存在及び成立に争いのない乙第三〇号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第二〇、第二一号証の各一、二、第二二(右各号証については原本の存在も認められる。)、第三一、第三二号証によれば、京浜住宅からの売買代金等一八五〇万円は野口秀男なる架空名義の預金口座に一旦振り込まれた後直ちに払い戻され、口座も解約されていることが認められる。右の事実に照らすと、権から松田への金員交付の点に関する証人権の証言及び原告代表者本人の供述は措信することができないといわなければならない。

そうすると、(二)に掲げた供述及び書証はいずれもにわかに採用しがたく、結局本件各登記による所有権の存在ないしその移転の推定を覆すには足りないものという他はない。

(四)  ところで一般に地上建物とその敷地の利用権は相伴つて処分されるのが常態であり、本件においても、本件建物が譲渡されたとすればその敷地である本件土地利用権もともに移転したものと推定すべきであり、本件建物を譲渡するについて本件1の土地の賃借権及び本件2の土地地上権を譲渡しない旨の特約をしたような事情はうかがえないし、また本件建物の譲渡に伴いこれらの権利の譲渡がされなかつた特段の事情も認められない。かえつて、証人権の証言に弁論の全趣旨を併わせると、京浜住宅は、本件建物を買受けるに際し地主との関係は自ら処理するとして、本件建物の敷地の借地権をも含めて取得した事実が認められる。

もつとも、甲第一八号証は、本件建物の敷地の一部である本件1の土地(右事実は当事者間に争いがない。)の所有者市川キヨに対し辛が昭和四四年六月以降も地代を支払つているとするものであるが、右書証については成立の立証がないばかりか、昭和四四年六月二九日の発行でありながら、同年三ないし五月分についての領収証部分も含まれその内容に疑義がある。しかし、この点は措いて、仮に辛が真実市川キヨに対しその名義で地代を支払つていたとしても、権は前記のとおり本件建物を利用してパチンコ店営業をしていたのであるから、地代は辛又は権が負担する約定のもとに支払つていたことも考えられないわけではないから、必ずしも借地権の譲渡がなかつたものと断ずることはできない。

また、成立に争いのない甲第一九号証によれば、本件2の土地には昭和四四年二月三日以降も辛名義の地上権の登記が存在し、原告に対する移転登記がされていないことが認められるけれども、対抗要件である移転登記手続が経由されていないからといつて地上権の譲渡がなかつたとはいえない。

(五)  前掲乙第七号証及び成立に争いのない甲第二二、第二三号証及び権の証言によれば、本件登記がされた際本件建物に設定されていた訴外横浜商銀信用組合を抵当権者、権を債務者とする二口の抵当権設定登記及びこれに伴う停止条件付賃貸借権設定仮登記並びに訴外辛七夕、同原田正剛を債権者、辛を債務者とする抵当権設定仮登記及び訴外辛七夕を債権者とし辛を債務者とする抵当権設定仮登記はいずれも抹消されずに残存し、その後、権が県から得た営業補償料等により債務を弁済して抹消したものであることが認められるが、証人権の証言及び原告代表者本人尋問の結果により認めうる権はかつて松田に雇傭されて以来、二〇数年間密接な関係にあつたという特殊な事情からすると、右のような抵当権等の負担を附着させたまま不動産の所有権が移転することもありえないことではないから、これまた前記推定を覆すに足りるものではないというべきである。そして、他に本件物件が原告の所有に帰したとの推定を覆すに足りる資料はない。

(六)  以上によれば、本件物件は原告が辛から買い受けこれを京浜住宅に売り渡したものであり、原告が本件物件に関し昭和四五年一〇月一九日本件除却補償料を受領したことは前記認定のとおりであり、また前掲乙第二〇、第二一号証の各一、二、二二号証及び証人清水善一の証言(第一回)によれば同月二六日付京浜住宅への売渡代金は一八〇〇万円であることが認められこれに反する証拠はないから、本件物件の譲渡価額は右の合計二四一二万五六九一円であり、本件物件についての右各処分に伴う利益は原告の本件事業年度の益金に加算されるべきである。

2  そこで本件物件の取得費につき検討する。

(一)  証人清水善一の証言(第一回)によれば原告は本件物件の取得費を帳簿に記載せず本件更正に係る調査に当たつて何らの資料も提出しなかつたことが認められ、本訴においてもこれを証するに足りる資料は提出されていないのであるから、結局右取得費を推計により求めざるを得ない。

(二)  そこで被告の主張する算式につき検討する。

まず、本件建物の敷物の範囲について検討するのに、本件1の土地すべてが右敷地に含まれることは当事者間に争いがなく、本件2の土地については、前掲甲第一九号証及び成立に争いのない乙第三九号証の三によれば、昭和四五年一二月一日に分筆される前の川崎市浜町一丁目五二番一〇宅地一七九・四〇平方メートルのすべてに地上権が設定されていたことが認められ、この事実と証人磯部喜久男の証言により真正に成立した認められる乙第三四、第三五号証により認定される本件2の土地と本件建物の位置関係に鑑みると、右地上権は本件2の土地全体に及んでいたものと認めるべきである。従つて本件建物の敷地は合計三六九・三一平方メートルとなる。

次に前記乙第三四、第三五号証並びに証人平井拓雄の証言及びこれにより真正に成立したと認められる乙第三三号証によれば、本件物件が原告に譲渡された直後の昭和四四年三月一二日、本件土地と川崎停車場扇町線を挾んで向かいの土地である川崎市浜町一丁目三七番一、同番五の土地所有者である訴外平尾茂雄が右各土地の一部を県に対し平米当たり四万八〇〇〇円で売渡したことが認められるので、他に特段の立証もない本件にあつては本件土地の単価も右と同額と認定すべく、本件土地の更地価額は一七七二万六八八〇円となる。

次に被告は別紙三1の算定方式として、本件土地借地権はその地上に借家権の付着している本件建物が存在しているのでいわゆる貸家建付借地権であると主張する。しかし、権が本件建物を使用していたことは前記認定のとおりであるが本件全証拠によるも右権の使用権限がいかなるものであるかは明らかでなく、権が原告に賃料を支払つていたかどうかも明確でないから、被告の右主張は採用することができない。

従つて本件土地に対する権利は通常の借地権と認定すべきところ、成立に争いのない乙第三八号証及び証人平井拓雄の証言により真正に成立したと認められる乙第三七号証によれば、東京国税局長の作成した昭和四四年分相続税財産評価基準書による本件土地の正面路線価は八万円であり、正面路線価が五万円以上一〇万円未満である川崎市内(川崎北区官轄区域内を除く)の土地の借地権割合は六五パーセントとされていることが認められ、他に特段の反証のない本件にあつては右割合を本件土地の借地権割合とするのが合理的というべきである。なお原告は右評価基準は相続税及び贈与税の財産評価以外には用いられないと主張するが、前記乙第三七号証の「この地図に記載された路線価は相続税および贈与税の財産評価にのみ適用されるものです」との記載文言は、路線価自体を直ちに財産の評価額として用いることはできないとしているに過ぎず、右の資料を用いて当該土地の借地権割合を算出することが許されないわけではない。また原告は本件土地のような店舗地においてはその借地権割合は八〇パーセントと評価すべきであると主張するけれども、右事実を認めるに足りる証拠はない。

そして成立に争いのない乙第六号証によれば、昭和四四年分の本件建物の固定資産税評価額は二三四万二五九三円であつたことが認められるので、特段の反証のない本件にあつては、原告の取得時の本件建物の価額は右と同額であつたものというべきである。

前記認定の本件除却補償料の支払い、本件物件の売買の経緯によると、本件除却補償料は本件建物の一部及びその敷地部分の借地権の売買代金とみるべきであるから、右各取引の取得価額は、これを区分せず一体として評価することが相当である。してみると、本件物件の譲渡益については被告の主張する別紙三3の算定方法によるのが合理的というべきであり、その額は被告の主張するとおりの計算により一〇二六万〇六二六円となる。

(三)  なお、原告の主張する別紙四1の算定方法については、権が松田に対して負つていた債務額は必ずしも本件物件の原告取得当時の時価と等しいものといえないのみならず、右の債務額自体立証されていないことは前記のとおりであるから、採用しがたいものといわなければならない。

また、原告の主張する別紙四2の算定方法については、一般に地上建物に抵当権を設定する場合抵当権の被担保債権額と建物の価額とは必ずしも一致するものではないが、右算定方法は本件建物に設定された抵当権の被担保債権を直ちに本件建物の価額と推定している点に問題があり、また、地価指数と物価指数とは必ずしも一致しないことは経験則上明らかであるのに物価指数の上昇率により借地権価格を推定している点で合理性を欠くという他はない。

四  未収賃料等計上洩れについて

1  進栄建設分

(一)(1)  被告の主張1(六)(1)〈1〉アの事実は当事者間に争いがない。

成立に争いのない甲第九、第一〇号証、乙第一二、第一三、第一八号証(乙第一二、第一三号証については原本の存在も争いがない。)及び証人三上、同繁、同中村の各証言及び原告代表者本人尋問の結果によれば、

進栄建設は昭和四四年末頃には経営状態が悪化し、従業員数も減少して代表者中村の他は僅かな従業員のみが働くだけになり、原告に対する賃料も滞納を続けていたため、繁は、右滞納賃料の支払いと立退きを迫つたが、中村は、賃貸借契約が期間の満了により終了することは認めたものの、その終了後も明渡しに応じなかつた。そのうち、進栄建設の使用していた紀陽ビル七階一号室に新たな借り手が現われたので、松田及び繁はやむなく、昭和四五年五月頃、右室の明渡しを得るため、原告が管理事務所として使用していた五階の一部を中村に対し無償で提供し、七階一号室の明渡しを得た。中村は五階の一部を同年三月設立した東大ハウス及び進栄建設の名を用い、後には東大ハウスの名称のみを用いて使用していたが、先の賃貸借契約は期間満了により終了したものと考えており、原告は進栄建設に対し、七階一号室の滞納賃料、管理料は請求したものの、五階の一部に関する賃料、管理料及び損害金を請求することなく、その意思もなかつた。但し、中村が五階において使用する電気、水道料の実費分は原告に対し支払うことを約し、原告も東大ハウス名でこれを請求し、現実にそのかなりの部分は支払われた。

以上の事実が認められ、右認定に反する証人清水善一の証言(第一回)及び証人繁の証言の一部は前掲証拠に照らし採用できない。また証人清水善一の証言(第一回)により同人が原告の入居請求一覧表と請求書をもとに作成したものであることが認められる乙第一〇号証「進栄建設に対する賃貸料等一覧表」には昭和四五年四月以降も月額九万二〇〇〇円の賃料及び一万円の管理料が記載されているが、右証言によれば、これは国税審査官として本件審査請求に係る調査を担当した同証人において進栄建設との賃貸借契約が更新されたものと判断して書き加えたものであることが認められるから、前記認定を左右するに足りるものではない。

右事実によれば、原告と進栄建設との間の賃貸借契約は、昭和四五年三月五日の期間満了の時点において、又は少なくとも同年五月進栄建設が七階一号室を明渡した時点において、合意により解約されたものというべきである。

なお証人清水善一の証言(第二回)によれば、進栄建設は昭和四五年一月一日から同年一二月三一日までの年度分の法人税確定申告書及びこれに添付された決算書に原告に対する「未払家賃」を計上していたことが認められるが、前記認定事実に照らすと、右のように進栄建設がその帳簿に「未払家賃」を計上していたからといつて賃貸借契約が継続していたものと認定することはできない。

従つて契約が更新されたことを前提とする被告の主張1(六)(1)〈1〉の主張のうち賃料・管理料に関する部分は失当である。

(2)  また右に認定したとおり、原告は右契約終了後は中村又は進栄建設又は東大ハウス(以下「中村ら」という。)に対し賃料・管理料を請求する意図はなく、中村らもこれらを支払う意思もなかつたのであるから被告の主張1(六)(1)〈2〉の主張のうち賃料・管理料に関する部分もまた失当である。

(二)  しかしながら、中村らは電気料及び水道料については、原告に対しその実費分の支払いを約していたことは前記認定のとおりであるから、これらの金員は原告の収益として計上すべきである。そして前掲甲第九、第一〇号証、乙第一三号証によればその額は昭和四五年一一月分から同四六年九月分までが合計一六万三八四三円であることが認められ、昭和四五年一〇月分については前掲各証により、電気料は少なくとも昭和四四年一〇月から同四六年九月までの間の最低である同四四年一〇月分と同額の七五〇〇円、水道料については昭和四四年一〇月から同四六年四月までの定額であると認められる二〇〇〇円とそれぞれ推定するのが合理的であるから合計一七万三三四三円となる。

(三)(1)  ところで、昭和四五年一〇月分以降進栄建設に対する未収家賃・未収管理料として計上すべき収益がないのは先に説示したとおりであるが、前記認定のとおり原告は中村らに対し五階の一部を無償で使用することを許したものであり、無償による役務を供与したものであるから、右役務のもつ時価相当額の経済的価値が中村らに移転し、これにより右役務のもつ経済的価値が実現されたものというべきである。そうすると、右役務の時価相当額すなわち賃料及び管理料相当額はこれを益金に算入し(法二二条二項)、これに対応する額を中村らに対する法三七条による寄付金として計上すべきである。

(2)  そこで右賃料及び管理料相当額につき検討するに、先に認定した事実及び証人繁の証言によれば、紀陽ビルにおいては使用階数により賃料等の坪単価が定められており、使用面積が特定されれば賃料等は右の坪単価に使用面積を乗ずることにより算定されることが認められるので、まず中村らの使用していた面積を考察する。

原本の存在及び成立に争いのない乙第一七号証、証人神谷栄吉の証言及びこれにより真正に成立したと認められる乙第一九号証及び証人三上の証言によれば、三上は、本件調査に当たつた、当時麻布税務署の職員であつた神谷栄吉に対し五階の間仕切りより奥を東大ハウスが使用していると説明したこと、原告の職員は右神谷に対し右間仕切りより奥の、乙第一九号証で二本線で表示される線より奥の部分を東大ハウスが使用していると説明したこと、右二本線より奥の部分は図上で計算すると約二六坪になること、三上は右神谷に対し昭和四五年六月から同四七年一二月までの東大ハウス及び進栄建設の使用面積は二一坪である旨を記載したメモ書を手渡したことが認められ、これらの事実を総合すると、中村らの使用していた面積は少なくとも二一坪あつたと認めるべきであつて、これに反する証人繁、同中村、同三上の各証言及び原告代表者本人尋問の結果は前掲各証拠に照らしたやすく採用できず、他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。

(3)  次に前掲乙第二九号証及び証人繁の証言によれば、紀陽ビルの五ないし七階は同一間取りで当初の賃料は同一であつたこと、しかし後には七階が若干高額となつたが、五階の坪単価は六階のそれと同額であつたことが認められるから、被告主張のごとく六、七階の坪単価の平均値により算定すべきではない。しかして、当時六階を使用していた岡崎製作所の坪当たり月額賃料は四五〇〇円、管理料は六〇〇円であることは当事者に争いがないので、中村らの使用面積二一坪を乗ずるとその月額賃料相当額分は九万四五〇〇円、管理料相当額は一万二六〇〇円、一年分は合計一二八万五二〇〇円となる。従つて右一二八万五二〇〇円は無償による役務の供与として益金に算入すべきこととなる。

2  ラブラブ分

(一)  原告とラブラブの間に賃料月額五九万一〇〇〇円とする賃貸借契約が昭和四六年九月一日に締結され、その頃地下一階が引き渡されたことは二1(二)に認定したとおりであり、再抗弁に対する判断も二1(三)に示したとおりであるから、昭和四六年九月分の賃料五九万一〇〇〇円は本件事業年度の益金に加算すべきである。

(二)  保証金に対する利息については、前掲乙第三号証には、保証金三五〇〇万円の支払のため振出した約束手形の支払期日まで、ラブラブが利息として毎月金弐拾六万弐阡五百円也を原告に支払う旨の文言が記載されているが、前掲甲第一五号証並びに証人三上、同川島の各証言及び原告代表者本人尋問の結果によれば、右約定は、右保証金に対する昭和四七年九月一日から支払期日である同四八年八月三一日までの利息に関する約定であることが認められ、他に右認定に反する証拠はないから、右二六万二五〇〇円を本件事業年度の益金に加算することは許されない。

五  以上二ないし四に認定した事実及び争いのない事実を前提として法三七条、令七三条により寄付金の損金不算入額を計算すると、原告の本件事業年度における所得金額は別紙五のとおり二二四八万四八九二円となり、本件更正における所得金額を上回るから、本件更正は適法である。

六  原告が右に認定したとおり本件物件を取得しながら帳簿に記載せず簿外資産とし、その譲渡益についてこれを帳簿に計上せずその所得を除外して確定申告をしたことは弁論の全趣旨により明らかであるから、右行為は国税通則法六八条一項に規定する国税の課税標準又は税額等の計算の基礎となる事実を隠蔽したところに基づき納税申告書を提出した行為に該当するから、本件物件の譲渡益一〇二六万〇六二六円は重加算税の対象所得となる。その余の所得一二二二万四二六六円については、これが申告の計算の基礎とされなかつたことについて正当な理由があるとは認められないので、同法六五条により過少申告加算税の対象所得となる。

ところで、前掲甲第一七証によれば、本件賦課決定における重加算税の基礎となる所得は九六八万〇六九一円であり、過少申告加算税の基礎となる所得金額は、本件更正による増加所得金額二二一〇万九五九九円から右金員を差し引いた一二四二万八九〇八円であることが認められるので、これと対比すると、重加算税の対象所得金額及び各加算税の対象所得金額の和は本件賦課決定によるものより多額であるが、過少申告加算税の対象所得金額は本件賦課決定のそれより少額であることが認められる。しかし、重加算税は過少申告加算税の賦課要件及び税率を加算したものであるから、本来重加算税を課すべきところを過少申告加算税を課しても、本件賦課決定を違法ならしめるものではないというべきである。

七、以上によると、本件更正及び本件賦課決定はいずれも適法であり、原告の請求はすべて理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 時岡泰 裁判官 満田明彦 裁判官田中信義は転補につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 時岡泰)

別紙一

〈省略〉

(所得金額欄の△は翌期へ繰越す欠損金の額である。)

別紙二

(一) 神奈川県川崎市浜町一丁目五二番地一〇、五二番地二、五二番地四

家屋番号 五二番一〇の一

構造・種類 木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建店舗兼居宅

床面積 一階 二五八・五四平方メートル

二階 九二・五六平方メートル

(二)1 訴外市川キヨ所有の神奈川県川崎市浜町一丁目五二番二 宅地二四五・九五平方メートル、同番四 宅地一六・八五平方メートルの二筆の土地のうち一八九・九一平方メートルに対する賃借権

2 訴外越谷史郎所有の同番の一〇 宅地一七九・四〇平方メートルに対する地上権

別紙三

〈省略〉

別紙四

〈省略〉

別紙五

〈省略〉

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